太陽と月が共に歩む日

 結婚式の日取りを決めることとなり、オズワルドはグリニッジ天文台の気象予報士──テンペスト・ウェザーリポートと言うらしい──の元を訪れていた。

 なんでも風を自在に操る竜の血を引いているとかで、予報の精度が高いのだということらしく、成程式の日程を決める上では確かに天候も気にした方がいいかもしれない、それにグリニッジ天文台には著名な占い師も住んでいるだとか訪れることが多いだとか噂を聞いたことがある、と一度訪ねてみる事に決めたのだった。
「成程、それでこちらにいらしたんですね」
「うむ。吉日だとかそういった事柄には疎く、 心当たりのある知人にも相談はしているのだが中々決まらず困っている」
鋭い爪のついた人間離れした大きな手が器用にティーカップに紅茶を注ぐと、爪が食器に当たる度にコツコツと音が鳴る。
「どうぞ」
「ご丁寧にありがとう」
紅茶を飲みながら話を続ける。残念ながら占い師の方は人前に出たがらない性質だとかでそちらの話は聴けそうにないが、テンペストの方は態々訪ねてきたオズワルドに気を遣っているのか、幾らでも相談に乗ると話した。
「ですが、僕達気象予報士にも限界はありますので、確実に晴れる日を紹介する、というよりも空に携わる立場からのご提案という形になってしまいますね」
「む……やはり一ヶ月や二か月先となると天気を予測するのは困難なのだな……
「ええ。ですから、そうですね……暦などを参考にしましょうか。例えば月の満ち欠けだったり、星の位置だったり……
「月、月か! それなら私は満月の日が良いかと思っているのだが──」
月、と聞いたオズワルドが少し前のめりになりながらそう提案すると、テンペストは落ち着くように諭しながら自分で用意した茶菓子を一つ摘む。
「月に思い入れが?」
「ええ、私の……その、妻、となる方が、なんていうか……つまり、慈愛に満ちた……月のような、静かで、それでいて心に残る、そんな輝きを持った女性で」
辿々しく語りながら、それでいて自分の言葉に照れているのか自身の茜色の髪のように顔を真っ赤に染まらせていくオズワルドを見てクスリと笑った後、成程そうですか、と返すテンペスト。
「でしたら、僕はむしろ満月の日を避けるべきだと考えます」
「ええっ?」
テンペストの提案に、オズワルドは理解できないと言いたげな声を返す。が、テンペストはそんなことは意にも介さず、月の満ち欠けが一緒に書かれた卓上カレンダーを手に取った。
「お噂は予々伺っておりますよ、貴方は太陽にも喩えられる程の真っ直ぐな御仁であると」
「うむ、よく言われる」
「でしたら新月の日はいかがでしょう。新月の日は月が見えませんが、それは太陽に寄り添って共に登り、共に沈んでいるからなのです。太陽と月が共に歩み始める日として、これほどちょうどいい日はありませんよ」
そう言い切ったテンペストがオズワルドに目を向けると、まるで雷に打たれたかというような衝撃を受けた表情で固まっており、想像がつかないなら図解しましょうか、と付け足すテンペストの言葉はもう耳に入っていないようである。
「なんていい案だ。私は今、かつてない程に感動している……!」
「僕の言葉が背中を押せたようで良かったです」
「すぐに家の者に知らせなければ、ウェザーリポート殿、感謝します」
「こちらこそ、わざわざ訪ねて来てくださってありがとうございます」
振る舞われた紅茶を飲み干し、慌ただしく天文台を後にするオズワルド。

その背を、ブリテンでは珍しく晴れた日の太陽が照らしていた。