骨壺

 養父が死んで、分かったことがある。
 一つは、彼には自分達以外にこういう場に現れるような血縁が存在しないということ。
 もう一つは、どんな人間でも死んだ後はこんな風に骨にされて、小さな入れ物に収められてしまうのだということ。

 骨壷を持って火葬場から出てきた俺と姉を待っていたのは、養父の友人だった。
「……碧」
 普段であれば姉に近付けるのも躊躇われる人間であるのだが、追い払う気が起きないのは彼の人柄が泣きじゃくっている姉を元気付けるのに利用できると判断したからか、それとも、俺が今この場で彼を必要としているからなのか、自分では判断がつかなかった。
 養父を蛇蝎の如く嫌っていた自分でさえ感情の整理をつけられなくなっているのに、側から見れば良好な関係を築いていたであろうこの男は姉の涙をハンカチで拭っているその裏で何を抱えているのかなど知る由もない。
「……お前もさ、姉ちゃんみたく泣きたからったら泣いても良いんだよ」
 骨壷を抱えて立ち尽くしている俺を見て言った言葉は、気のせいかもしれないがどこか彼自身に向けてのものにも受け取れるようだった。

「姉ちゃんは尊巳さんの事慕ってたんだな、あんなに泣いちゃってまあ……」
 火葬場から家に向かう車の中で碧が声を掛けてくる。
「……姉さん”には”普通の親だったからな」
「普通の、か。はは、想像つかねぇな」
 後部座席からバックミラーを通して見える碧は、明るい声色とは裏腹にぎこちなさを感じる笑みを浮かべていた。
「……初めてお前らに会った時はウソだろって思ったよ。気でも狂ったのかってさ。んで聞いてみたら病気だって言うんだからほんと」
 碧の声は次第に小さくなって、やがて喉に何かを詰まらせたように突然途切れる。それを取り繕うようにわざとらしく咳払いをしてから、碧は再び口を開く。
「あの人なーんも事前に教えといてくんねえんだから。養子ができたとか、病気になったとか……ほんと、全部……」
「…………碧にこそ知られたくなかったんじゃないか」
「何でだよ」
「プライド、とか? 気ィ遣われたくなかったんだよ、きっと」
「そうかぁ」
 不服そうな返事が聞こえ、碧の視線が前方に戻る。
 死人に口なしとは言うが、生きている人間も往々にして口を閉ざす。これから継いでいく養父の仕事は、その閉ざされた口が隠しているものを暴く事で、自分にそれが務まるのかと一抹の不安を覚えた。

 どんよりと曇っていた空からぽつりぽつりと雨が落ち始める頃になって、ようやく車は止まった。