”だいじなもの”

……何だこれ」
 机の上に置かれていた首輪を持ち上げ、首をかしげる男が一人。
「首輪……犬用か? 犬なんて飼ってたかな」

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「セロちゃん何飲む……ってちょっと、勝手に触んないでよエッチ!」
 客に声を掛けようと待たせている部屋をのぞき込むと、”だいじなもの”を手に取り何やら考え込んでいる姿が見え、慌てて手に持っているそれをひったくる。
「ハァ!? 触られて困るもん出しっぱなしにすんな」
「参ったなぐうの音も出ない正論だ」
……で、これ何?」
「首輪」
「見りゃわかる、昔犬飼ってたのか?」
「あー……話せば長くなるねえ……
「要約」
「え~」

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 ……僕ねえ、昔飼われてたんだよね、まあそんなに長い間じゃないけど。
 ちょっと、話始めさせておいて帰ろうとすんのやめない?タバコ吸っていいからさ。はいはい、火も付けますよ……で、飼われてた話に戻るんだけど……まあ、変な人だったよ。飼われてたって言っても首輪つけるだけでほんとに犬扱いされてたわけじゃない。
 え?何歳ぐらいだったか? あ~……14くらいかな……んで期間は3年ないくらい。
 最初はめちゃくちゃ嫌だったよ……なんだけど、そのうち何となくこの人そんなに悪い人じゃないのかなとか思い始めてさ、でも、生活に慣れた頃に僕を飼ってた女の人、連れてかれちゃった。
 よくある話だけどさ、嫁いだ先で良く扱われて無かったみたい。芸術家だったんだけど作品壊されたりとか。酷い話だよね。……そんで家からお金持って逃げた先で僕を買ったんだってさ。喋れる猫感覚だったのかも。
 それからはまあ……僕も顔がいいのは分かったし、その人にちょっと絵とか教えてもらったりもしてたから、真似事でもそれなりの事ができるようになるまで色んな人のとこ転々として何とか今まで暮らしてきたって感じ。

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「で、これがその時の首輪と」
「うん。同情した?」
「いや全然……枕でパトロン取ってるの知ってるし……
「それ言ったら台無しだろ~~~!」
「いや綺麗に話切るの無理だろ……そもそも人間として所業がダメ」
「そうは言いますけどセロちゃんさん、僕も気を付けてるんだよ? 女の子と一緒にいる時はちゃんと楽しく過ごしてもらえるように努力していてだね」
「その携帯の音止めてから言えよな」
 友人の言葉に反応するように、携帯電話がバイブ音を立てた。