「ムカつくくらい理性的」

「やっぱ探偵ってそういうの必要だったりするの?」
 ベランダで煙草を吸っている友人に声を掛ける。
……は? 主語はどうした」
 また変なことを言い出したとばかりに溜息と共に吐き出される煙を浴びせられながら彼の鼻先を指差す。
「ポーカーフェイスってやつ? なんかあんまり表情変わんないよね。するときもさ」
……自分の顔は見えないからな、答えようが無い」
「ふーん……人間って難儀だよね」
「一応聞こうか」
「動物的な欲求を満たしてる時ですら恥とかに縛られちゃうのって窮屈だよねぇって話。もちろん君がそうとダメ出ししようってわけじゃないよ」
「それはお前も同じだろ」
 そう言いながら腰の古傷の辺りを指で突いてくる。
「傷触ると露骨に嫌な顔をする」
「!……へえ、意外としっかり見てるんだ。分かってんなら辞めて欲しいんだけど……まあそれは今は置いておくとして」
「じゃあ何だ?」
「君の仮面が割れたところも見てみたいなぁって。逆になってみない? 次はさ」
「ハァ!?」
 驚いた声を上げる友人の手から煙草が滑り落ちるのを慌てて灰皿で受け止め、灰皿に押し付けて火を消す。
……あんな顔しろってのか、俺に」
「そうとは言ってないでしょ。ただ──」
 指で顎をくいと持ち上げ、こちらを睨みつける目を覗き込む。
「君がそう思うなら、その時はそういう顔してくれるのかな」
「ッ、知るかっ!」
 友人は乱暴に手を払いのけ、舌打ちをしながら僕と一歩距離を取る。
「それじゃ女側はやってみないってわけ? ……女の子の気持ちも知らないで教育だなんて笑わせてくれるなぁ。あーあ、男の気持ちしかわかんないやつに教えられる子たちが可哀想」
 久しぶりに見た彼の動揺する様子にもう少し見ていたいと悪戯心がつい湧いて、我ながら安い挑発を仕掛けていた。
「何だと?」
「だってそうだろ? 女の子が何考えて抱かれてるかも分かんないやつが和姦? 思い遣り? そんなん教えられると思う? 君にはそれを子供に教えてくれる女性は居ないわけだし」
 流石にこれに乗られたら今後の付き合いを考えるレベルで見え透いた挑発だが、表情を見るになかなか効いているようだ。
「まあ別に僕はどっちでもいいけどね」
……か」
「えっ?」
「やってやろうじゃねえか」
 正直な話、殴られるか流されるかのどちらかだろうと思っていたせいで一瞬反応が遅れる。
……ああそう? なら練習しよっか」
 笑顔で返せば、友人は深い深い溜息を吐いた。