色々割愛するが目が覚めたら病院に居た。この話を深堀りするには非常に豊富な語彙と文章構成力が必要になるほどの……とにかく、学生時代に身に着けた護身用の剣術が役に立つような事があったのだ。
上を向いたままの視界に映るように手を動かすとあちこち包帯を巻かれた両腕が見え、なるほど怪我をしたようだと思い立つ。
「……おはようございます、よく眠れましたか」
聞き覚えのある声に跳ね起きるとベッドの脇の椅子に座った恋人の姿が目に入った。
「全く、新年早々刀傷なんてどこで作ってくるんだか……」
呆れたように目を伏せ、溜息を吐く神崎。
「あの、さ、……怒ってる?」
そう問うと、いいえ、と口では否定するもののその表情は硬い。
「……それよりも悲しいです。年始早々に病院に担ぎ込まれてくるような大事になってるのに何一つ相談してくれなかったの、結構堪えてるんですよ」
「けど、大した怪我でもねぇし俺は──」
大丈夫と、そう言いかけて言葉に詰まる。神崎の表情が今まで見たこともないような苦しそうなものだったからだ。
「それは、僕につかなきゃいけない嘘なんですか」
絞り出すような声で続ける。
「そんなに頼りないかな、僕は」
「俺はそういうつもりで言ったんじゃ……」
「そういうつもりがないとしても、僕にはそう聞こえます」
「……ごめん」
「君はいつでもそうやって大丈夫、大丈夫とばっかり言って僕を突き放して……どうしてもっと頼りにしてくれないんですか」
神崎は膝の上で組んだ手に視線を落としたままだ。
「君一人で抱え込まなくたっていいじゃないですか。少しくらい、君の支えにならせて下さい。僕ら恋人同士の筈でしょう?」
「……っ」
何も言えなかった。いつもならきっと、負担になりたくないだの巻き込みたくないだの何かしら言えていただろう。けれど今の俺にはそれが出来なかった。
神崎はそれ以上追及せず黙り込む。気まずい沈黙の中、俺は彼に何を話すべきかと考えを巡らせていた。
「別に、大した事無い。ちょっと激しい親子喧嘩みたいなもんだよ」
やはり、真実をそのまま伝えるなんてことはできず、見え透いた嘘をついてしまう。
「…………」
神崎は何も言わずに考え込んでいる様子だ。明るく言ってみたもののやはりそんな気分で聞いてられるものではなかったのだろう。
「……納得出来ませんよ」
「まあ、そうだよな」
「逆の立場だったとして、君は普通で居られるんですか、こんなことになって」
「返す言葉もない……」
俯いて溜息を吐く。全くもって彼の言う通りだ。
「けど、身内の問題だからさ。俺がどうにかしなきゃって……」
「……分かりましたよ。起こってしまったことに対してはもうこれ以上追求しないとして」
「して?」
神崎の言葉に顔を上げる。
「これからの話をしましょう。これから先……少なくとも、一緒にいる間位は無茶をしない……と言っても君は勝手に体が動いてしまうと思います。だから、せめて相談や報告はしてもらえませんか? 君の近くにいるのに、話も聞いてもあげられないなんて悲しいじゃありませんか」
「え、あ、ああ……分かった」
真っ直ぐ見つめてくる瞳に射抜かれてつい素直に答えてしまう。すると彼は嬉しそうに微笑んでくれた。その笑顔を見ているだけで心が軽くなっていくような錯覚に陥る。
「……それでは、今日はこの辺にしておきますね。また明日来ますから」
「あ、ああ……」
名残惜しそうな表情を浮かべつつ神崎は立ち上がる。そのまま部屋を出て行こうとする彼の背に、咄嵯に声が出た。
「あのさ!」
引き戸に手を掛けたまま彼が振り返る。
「どうしました?」
「……ありがとう。こんな俺と一緒にいてくれて」
「僕がそうしたいからしているだけですよ」
そう告げて、今度こそ彼は病室から出て行った。