林檎と柄長

最も高くて最も小さい

 友人が自分の絵を見ている様子を、一度だけ見たことがある。 たまたま絵を描いている途中に席を外していたところで友人が仕事部屋に入ってきたのであろう、主の居ない部屋で描きかけの空と向かい合って立ち尽くしている姿はしばらく経った今でもはっきりと…

『12月25日』

 友人には血の繋がりのない子供が何人も居る。 血の繋がりこそ無いが、その溺愛ぶりは自分の手を離れた子供であろうと祝い事や行事の日には何かとつけて電話をかけたりケーキを買ったり、とにかく子供にとって大切であろう1日を大事に祝う姿からもよく分か…

描きたい空

 ──気づけばまた、青と向き合っている。 毎度毎度、この四角と向き合っては違う空を描いている。けれども一度たりとも満足のいくものが描けた試しは無かった。 それでも手を止められないのは、この空への焦がれが自分の根幹を成している所為なのだろうか…

727×530

 小さな仕事部屋の片隅に、古いキャンバスが置いてある。 青や白の絵の具が側面や背面にまでべったりとついているそれは、部屋にある他のキャンバスのどれと比較しても異質な物だった。 手慣らしをしたい時、心を落ち着かせたい時、特に理由がなくても………

野良猫は首輪を着けない

 煙草の匂いの染みついたベランダに佇み、他人から受け取った指輪を太陽光に翳す。 見る角度を変える手の動きに合わせて傷ひとつない銀色の輪がチカチカと光を反射し嫌に煌めくのを、僕は何の感慨もなくただ眺めている。 "彼女"は自分の何を繋ぎ止めよう…

「ムカつくくらい理性的」

「やっぱ探偵ってそういうの必要だったりするの?」 ベランダで煙草を吸っている友人に声を掛ける。「……は? 主語はどうした」 また変なことを言い出したとばかりに溜息と共に吐き出される煙を浴びせられながら彼の鼻先を指差す。「ポーカーフェイスって…

名前の無い二人

 ──僕は、この関係に名前をつけられないでいる。 友人、と一口に片付けてしまうには少々距離が近くなりすぎた。 かといって、別に恋人とかそういった特別な関係にあるわけでもない。「……セフレ? いや流石に違うよね……」 ごくたまにそういうことを…

煙草の煙は空に溶かして

 朝目を覚ますと隣に誰かが寝ている、そんなことは日常茶飯事で、特に驚く事ではない。 ……それが友人でさえなければの話だが。「…………」 酒の力というものは恐ろしいもので、余りにも易々と一線を飛び越えてしまった事実に嫌な汗が背中に伝うのを感じ…

六文すら残らぬ人生を

「いやほんと、ありがとね……持つべきものはお友達だよ」 病院帰りに友人の車の助手席で揺られながら感謝を述べると、友人は深い溜息を吐く。「俺からの評価は知人に落ちそうだが」「酷いなぁ、せめてそういうのは怪我が治ってから言ってよ……弱ってる時に…

君の失恋

「全く、僕らってほんとどうしようもないね、変なところばっかり似てる」 冷えた缶ビールを開けながらそう呟けば、不機嫌そうな「ハァ?」という声が友人から聞こえてくる。「一緒にするなよ」「まあまあそう睨まないで。心中お察しするよ。僕なんかにわから…

”だいじなもの”

「……何だこれ」 机の上に置かれていた首輪を持ち上げ、首をかしげる男が一人。「首輪……犬用か? 犬なんて飼ってたかな」****「セロちゃん何飲む……ってちょっと、勝手に触んないでよエッチ!」 客に声を掛けようと待たせている部屋をのぞき込むと…