長編交流作品『本日は晴天なり』まとめ

  • 1.忘れもしないかの秋旻

     彼と出会ったのは、高校に通っていた頃だった。 出会ったのは、と言っても初めて会ったときに特別印象に残る出来事があったとか、そんな運命的なものは全くない。ただ、たまに行く図書館で見かけることが多かった、という程度の数少ない接点であった。 *…

  • 2.上の空は薄曇り

    「……い、先輩、火!」 耳元でした声にハッと我に返る。手元を見るとフライパンの中に焦げてひと塊になった炒飯だったものが香ばしいをギリギリ通り越した香りを上げている。「あ……悪い、焦がした」 焦げすぎたところを避けて皿に移す。パラパラとは程遠…

  • 3.出来すぎた外持雨

     試験勉強の為だと自分に言い訳を五つくらい重ね、翌日も図書館に来てしまった。苦しいにも程があるが、確かにこのまま帰宅してもどうせ試験勉強に身が入るとも思えないからどっちみち捗らないならばと彼に会える事を半ば期待しながらいつもの席に向かう。 …

  • 4.村雨の傘の下で

     その日は朝から空がどんよりと曇っていて、雨の前のような湿った、重たい空気が西京都中に吹き溜まっているような錯覚さえ覚える日だった。 案の定、昼過ぎ辺りからどんどん空が暗くなり出したかと思えば、授業を終えた生徒たちが家路につく頃には雨が降り…

  • 5.本日は晴天なり

     三日ほど降り続けた雨は夜のうちに止み、その日は前日までの雨が嘘のように青空が広がっている。 雨上がりの道に点々とある青空や太陽を映している水たまりを踏みながら歩けば、反射する光が目の端でちらちらと光っているのが見える。 俺は『次に晴れた日…

  • 6.春霖、桜を濡らして

     ほんのりと色づいた桜の蕾が開き始める頃だった。 卒業式を終え、同級生達がやれ打ち上げだ、やれ寄せ書きだと楽しそうに話しているのを尻目に教室を後にした俺は、同じ学校に通っているはずのとある人物を探していた。 通っているはず、というのも、学年…

  • 7.狐日和は吉兆か

    高校を卒業してからというもの、神崎の言っていた通り図書館に行くことは少なくなった。そのまま月日は流れ、劣化しないように丁寧に扱っていたつもりの文庫本も、何度も読み返したせいで少しだけくたびれてきてしまっていた。 顔を合わせていなければ次第に…

  • 8.早秋の何処までも青い空

     夏が終わり、次第に秋に近づいて行く九月。道行く人々は長袖だったり半袖だったりと、皆思い思いの服装で歩いている。 行き交う人々を眺めながら、その人の流れからは少し離れた場所で人を待っていた。 ぼんやりと眺める空はまだ秋の空とは言い難い目にし…

  • 9.その言葉は慈雨であり喜雨だった

     彼に想いの丈を打ち明けてから十日程が経った。あれから音沙汰が無く、ああやっぱりダメだったかと半ば思いかけてきたその頃、夕食の支度をしていた時に電話が鳴る音がした。それから少し置いて、俺を呼ぶ声が居間から聞こえてくる。「今行く」 そう言って…

  • 10.晴天の霹靂

     ある晴れた日の昼下がり。 ふと思い立って恋人に電話をかけてみることにした。ダイヤルを回す手が狂って何度もやり直しながら、恋人の電話番号にダイヤルを合わせる。 耳に受話器を当てて少し待っていると、電話の向こうから声が聞こえてきた。『もしもし…

  • 11.冬隣は君と共に

     色づいた木々が葉を落とし始め、秋もそろそろ終わりを迎えようかという頃。過ごしやすかった気温もだいぶ下がり始め、いよいよ近づいてくる冬に備えよう、そんな頃だろうか。 先日、街中に姿の変わるキャンディがばらまかれる等事件もあったがそれ以外はい…

  • 12.新年早々降るは村時雨

     色々割愛するが目が覚めたら病院に居た。この話を深堀りするには非常に豊富な語彙と文章構成力が必要になるほどの……とにかく、学生時代に身に着けた護身用の剣術が役に立つような事があったのだ。 上を向いたままの視界に映るように手を動かすとあちこち…

  • 13.冬晴れに月は冴ゆる

     とある当直明けのことだった。商店街で福引をやっていたからと戯れに一回分引けるだけの買い物をして引いてみたのだ。普段のくじ運はまあとてもじゃないが良いとは言えない程度であるから、今回も良くて台所用洗剤、九割方ティッシュだろうと思いながら静か…

  • 14.海へ吹くは木枯らしか

     冬の海は寂しい。そう感じる人間は少なくないだろう。かくいう俺もそのうちの一人である。 この真冬の海に入る物好きはそうそう居らず、ただただ波が何も居ない水面に白く泡を作っている。その上堤防にもほとんど人の気配がなく、釣り糸をぼんやりと垂らし…

  • 15.鬼雨に笑う

     出先でバケツをひっくり返したような雨に降られ、たまたま出くわした恋人が近くに住んでると言うものだから急遽家にあげてもらうことになった。 あまり整頓はされてないからジロジロ見るなと念を押されながら玄関に入ると、言うほど散らかってはいなそうな…

  • 16.浅春とチョコレート

     二月の街はチョコレートの香りがする。 この時期はどこを歩いても菓子を提供しているような店ではこぞってチョコレートを使った菓子をを前面に押し出していて、そういった店の前を通ればケーキとまでは行かなくとも板チョコの一枚でも買って帰りたくなるの…

  • 17.鈍色の空と雨滴を眺めながら

     雨の音が聞こえる。 雨粒が窓を、草木を、地面を叩く。 窓の外を眺めてみれば、鉛色をした雲が空を全て覆い隠し、雨粒を降らせていた。 そして雲からこぼれた雨粒が時折窓にぶつかっては、水滴を飛び散らせている。 俺はそんな光景をぼんやりと眺めてい…

  • 18.春時雨過ぎて、酒涙雨

     この日は珍しく酒に酔っていた。 普段は全くと言って良いほど酒に触れない生活をしているから、たまにはどうだと誘ってきた知人も驚いていたのをぼんやりとする頭で覚えている。 普段なら断るが、今日は気分が良くてつい誘いに乗ってしまったのだ。 それ…

  • 19.天隠す酒涙雨、雲を裂いて神立

     がちゃり、と鍵が回る音が部屋の中に響く。その音に気付いた尊が音のする方へ向かうと、ただならぬ様子の恋人が玄関の扉を開けて入ってきたのが見えた。 靴を脱ぐでもなく壁に体重を預けてぼんやりとしている恋人に駆け寄ると、顔は赤くなっているし、しき…

  • 20.台風明けて、早暁

     カーテンの隙間から差し込んできた朝日が顔に当たり、眩しさで目を覚ます。二日酔いだろうか、少し頭が痛い。 横を見ると、尊がこちらに背中を向けて頭まですっぽりと布団に潜り込んでいる姿が見えた。丸く膨れている布団の塊はまるで大福餅のようで、なん…

  • 21.黄昏、曰く

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  • 22.指先に漫ろ雨

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  • 23.怠惰な雨雲

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  • 24.雨冷えの寝室

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  • 25.夜半の甘雨

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